書店員Nのほのぼのコラム第10回「P.S.すりーさん」

- タイトル
- P.S.すりーさん
- 著者
- IKa
- 発行
- マイクロマガジン社
- 発売日
- 2008-09-27
- 価格
- ¥ 1,000(税込)
すりーさんは、偉大な母と絶大な実績をもつ姉の後を任された、期待の新人アイドルだ。
いや、でした。
莫大なプロモーション予算と、事務所の期待を背負ってデビューしたすりーさんは、ですが残念なことに、母であるぴーえすさんや姉のつーさんのような輝かしい栄光は待ってはいませんでした。
お仕事に行っても楽屋がありません。とっくにキャストは変更になっていたのです。
すりーさんのためにこーえーさんとばんなむさんが作曲してくれた「巌駄無無双」は、一年後にライバルのはこまるさんの持ち歌になっていました。すりーさんのセールスが思わしくなかったからです。
事務所の大人たちはすりーさんの目の前で、プロジェクト失敗の責任をなすりつけ合います。
「そもそもこいつは必要だったのか!?」
なんて、小さな女の子相手じゃなかったとしても、投げつけていいはずがない言葉なのに。
すりーさんへの楽曲提供者の一人であるせがさんは、すりーさんをみて昔自分がプロデユースしたアイドルの女の子を思い出します。
どりきゃすという名前のその女の子は、同じように事務所の期待を一身に背負ってデビューしながら、結局自分の力を出し切ることのないまま、プロジェクトは打ち切られました。
「なんでですかっ!あたしはまだやれますっ!あたしはまだやれますっ!!」
せがさんの耳には、今でも打ち切り決定を告げた時の、どりきゃすさんの悲痛な叫びが残ります。
奇抜な発想と大胆な行動で人を驚かせる大らかなせがさんの、触れたくない心の傷です。
すりーさんはがんばっています。いつだって努力して、いつだって一生懸命がんばっています。
でも世の中は、世界は、がんばってもままならないことがたくさんあります。
「もんはん」が大ヒットして事務所の稼ぎ頭になった妹のぴーちゃんは、とりまきにおだてられて、けして口に出してはいけないことを言ってしまいます。
「すりーお姉ちゃんがもっとがんばってれば、あたしがこんなに苦労することなかったのにね…!!」
そう吐露したぴーちゃんの表情もまた、姉を貶める言葉をつい口にしてしまった苦渋に満ちていました。
ですが、それをドア越しに聞いてしまったすりーさんは、頭が真っ白になる感覚を味わいます。
何事もなかったかのように部屋に入って、買ってきたジュースとぴーちゃんの為に持ってきたお薬を渡すすりーさん。
「それから…お腹の調子が良くないって聞いて…先月お母さんにもらった…お薬を…」
気が付くとすりーさんの頬を一筋の涙が伝わっていました。
逃げるように部屋を出ていくすりーさんと、呼び止めた手のまま固まるぴーちゃん。
生気のない顔で廊下をふらふらと歩くすりーさんを、姉のつーさんが見つけて駆け寄ります。
「ちょ…ちょっとお前…!!なんて顔してんだ!!」
動揺したつーさんもまた、目元に涙を溢れさせていました。
売れるか売れないか。ヒットするかしないか。単純な二択です。ただ、それだけのことです。
でも、その単純なことが、普通の姉妹の愛情すら、簡単に歪めていきます。
プレッシャーが、全てを潰していきます。
すりーさんはせがさんにもらったチケットで小さなライブハウスに行き、そこでかってのアイドル、どりきゃすさんの熱気に満ち溢れたステージに感銘を受けます。
今自分のいる世界だけじゃない、もう一つの世界の可能性を感じて、すりーさんは少しだけ救われた気持ちになります。
栄光と挫折、蹉跌、諦念と執着と再起と、ゲームハードの興亡はまた人生そのものであることを、P.S.すりーさんは教えてくれます。












